top of page

No.07 山形県遊佐町 齋藤愛彩さん-地域の中高生が「まち」を創る

2021年3月19日

今回の取材は、庄内地方北部の都市、酒田から北に3駅。鳥海山麓のまち、山形県遊佐(ゆざ)町。クリネクション代表蓑田道(みのだたお)が現地へ足を運んだ。


目次



鳥海山麓のまち 遊佐

 秋田方面に走り去る羽越本線の列車を後にして、筆者が遊佐駅に降り立つと、駅舎の前には一人の高校生が、満面の笑みを浮かべて筆者の来町を出迎えてくれた。



 今回取材させて頂いたのは、遊佐町出身の高校3年生(21年1月当時)齋藤愛彩(さいとうあや)さん。あやさんは、遊佐町が運営する「少年議会」の少年町長を、高校1年生〜高校3年生までの3年間務め、若い世代の声を町に伝える活動をしてきた。


昨年の夏からは友人と共に、庄内地方の若い世代に庄内の魅力を伝えていく団体「ショウナイユースプロジェクト」を立ち上げ活動を始めている。


日々、地元遊佐・庄内地方の魅力を広めようと活動をされているあやさんに、少年議会と、遊佐に対する思いを語っていただいた。


あやさんに、古民家をリノベーションしたカフェ「わだや」を案内してもらい、ここで取材を行なった。

「わだや」の名物おやきをいただく。

1.少年議会とは

 遊佐町の少年議会は、遊佐町在住・在学の中高生から「少年町長」と「少年議員」を直接選挙で選び、若者の代表として、中高生の目線から、町に対する政策や要望を行なっている団体だ。


少年議会は20年近く前の2003年に作られ、来年度(21年度)で19期目を迎える。人口減少や高齢化などが進み、町の若い世代の声が届きにくくなる中、若者目線のまちづくりを行い、若い世代が地域について考え、参加するきっかけをつくることを目的に、立ち上げられたのだ。」




2.田舎が嫌いで都会への憧れが強かった

 あやさんは、中学2年生の時から少年議会で活動をはじめ、高校1年生から3年生までの3年間、少年町長として、遊佐をより良い地域にしていくための活動を率先して行なってきた。しかし、活動を始めた当初は都会に憧れていたという。


私は小6の時に、小学校にあったポスターをみて、少年議会を知りました。その時は田舎が嫌いで都会への憧れが強かったです。」


「入って最初に、遊佐がどんな町になってほしいかみたいなのを話し合うんですよ。その時私は、それこそイオンみたいなのができてもいいし、マックも欲しいし、ご飯食べるところも、遊ぶところも欲しい、そういう都会的な街になればいいなって言ったんです。(笑)」




少年議会が町民から公募して作られた、遊佐町イメージキャラクター「米~ちゃん」 

3.まちを自分のこととして考えるようになった

 少年議会で活動を始めた頃は、遊佐のことを「何もない町」と思っていたあやさん。しかし、活動する中で、そうした心境も徐々に変わってきたという。


活動を始めた年は、遊佐町の良さをまとめて紹介するパンフレット作りをしました。それを作る過程で、遊佐の町内巡りとかをしたのですが、今まで行ったことのなかった場所にも行くようになったんです。」


はじめて遊佐のことについて話し合ったり、話を聞く機会ができて。遊佐の想いに触れたりだとか、遊佐が本当に好きで育ってきた同世代の子たちとかと話して、『本当はいいところめっちゃあるじゃん』ってことに気づいたんです。」


ずっと遊佐に住んできたからこそ、地元の本当の魅力を見落としていたことに、少年議会を通して気づいたと、あやさんは話す。


改めてちゃんと遊佐の魅力と向き合うことで、町が自分のものとして捉えられるようになりました。」



4.少年議会が作り出した『斜めの繋がり』 

少年議会には、学校も学年も性別も違う中高生が集まる。応援してくれたりサポートしてくれる大人との繋がりもできる。あやさんは、少年議会を通して、上下や水平でもない、「斜めの繋がり」ができたと話す


「男女のバランスも入ってきた目的もみんな全然違う。全然リーダータイプじゃない子も入ってくるし、まちづくりって色々な視点が大切じゃないですか。それぞれ考え方が違うからこそ面白いです。」


また、学生同士の繋がりだけではなく、町の大人と中高生の繋がりができたことも大きいと話す。


活動する中で、成功、失敗に関わらず、町の人たちがすごい応援してくれて。若い人たちが遊佐で頑張っている。じゃあ自分たちも頑張らなきゃっていう。大人からそういう感じで声かけてもらえることも多くって。」


少年議会の活動風景



5.中高生が主役となり政策を考える

 少年議会には、役所の人や、地域おこし協力隊の人が、「アドバイザー」という形で入っている。しかし、政策に対して大人が口出ししたり、意見を否定されるようなことは一切なく、大人と学生が対等に意見を言い合える環境があると言う。


若い人たちって働いていないから暇でしょ、と思っている大人って多いじゃないですか。でも少年議会では、若い人たちをちゃんとまちづくりの一員として捉えてくれていると思います。大人の型にはめられちゃうと、自由に意見が言えなくなる。でも少年議会の場合はそれがないから、中高生が安心して居られる場所にもなっています。もう、「世代が違うお友達」みたいな感じですよ!」


やっぱり少年議会を作った以上、大人も学生に任せなきゃいけない(笑) そこで口出したら、それこそ主体性を奪っちゃうし、任せておいても大丈夫って言う長年の少年議会に対する信頼もあるのだと思います。」





6.ショウナイユースプロジェクト

 来年、大学生になることから、少年議会を卒業するあやさん。


現在、あやさんは遊佐、庄内地方の魅力を更に発信すべく、友人と一緒に「ショウナイユースプロジェクト」という団体を立ち上げ活動をしている。


これまで少年議会の少年町長として、活動してきたあやさん。これからは、組織の一員としてだけではなく、自分たちの手で地域の魅力を発信していく場所を作りたいと思うようになったのだ。


私が今まで少年議会で活動してきた中で、前の私みたいな中高生ってすごくいっぱいいて… 地域の魅力について一緒に考えたり、共有する場所を作りたいなって思ったんです。」


団体の活動や拠点作りを通して、これまで自分たちの地域に関心のなかった人たちを巻き込んでいきたいと話す。


興味ある層は、ほっておいても町のために動いてくれるようになるし、考えるようにもなる。そうじゃなくって、田舎なんか嫌いだ何もないって思っている人に届いて欲しい。っていうのがいちばんのターゲットとしてはありますね。」


「ショウナイユースプロジェクト」では、庄内地方で面白い活動をしている人を取材して、ウェブマガジンとして発信する活動や、地域の若い世代が繋がり、発信する場所を作ろうと活動している。


コロナをきっかけに、人の流れが「ふるさと」や「地方」に移ったから。このタイミングしかないなって思って。取材する中で、活動を応援してくれる人が増えていって、あと、実はもともと地域の居場所作りや拠点作りをやりたいと思っていたので、ユースセンターを作ろうっていう企画も、鶴岡市で動き出しています。」


これまで、庄内地方では、学生が主体となった活動はあまりなかったと言う。活動を始める中で、注目してくれる人の多さに気付かされたと言う。


いざ、活動をはじめて見ると、大人の人から『遂に庄内にもこう言う学生が出てきたか!』って言ってくれて。これまで誰も活動をしてこなかっただけで、私たちのような学生を応援してくれる大人が沢山いることに気づきました。」



あやさんと「ショウナイユースプロジェクト」のメンバー

7.地域とどのように関わっていくか

 あやさんは、4月から山形市内の大学に進学し、初めて地元を離れることになる。大学進学、そして将来、地元とどのように関わろうとしているのか。



古民家みたいなのを活用して、地域の人が誰でもこれる私設公民館みたいなのを作りたいんですよね。そこに私みたいなまちづくりの知識を持った大人がいて、そこに来た中高生と面白い大人を繋げて、地域のために色々なことができる拠点にしていきたいと思っていて。」


私、社交的ではあるんですけど、実は大勢で居るのがあんまり得意じゃなくて、結構気を使うタイプなんですよね!だから私、会社に入るっていうのが、席に座って、カタカタやって上司の言うこと聞くっていうのは想像できない(笑) 」


あやさんは、まちづくりに関する知識や経験を積んだ後、庄内地方でまちづくりの会社を立ち上げたいと考えているという。


まちづくりの活動って、例えば何か一つのスキルだけをめちゃめちゃ磨いて活動すればいいってことじゃないと思うんですよ。それこそSNSの作り方すらわからない自治体もあって、幅広くまちづくりに必要なことをなんでもできる人になりたいです。」




8.みんなが大切に守ってきた「まち」を守り続けたい

 今回の取材では、約2時間の時間を頂き、地元への思いを存分に語っていただいた。東京出身の筆者としては、まるで大事な家族の一員のように遊佐を愛してやまないあやさんを、内心羨ましく思っていた。


最後に、「ここまで地元を愛せるのは何故か」取材をする中で浮かんだ疑問をあやさんにぶつけた。


「遊佐は自分の生まれ育った土地でもあるし、それ以上に色々な人の想いに触れてきた部分が大きいのかな、と思って。少年議会の活動を通して、これまで、この町は、まちのみんなが本当に大切に守ってきたまちというのを知ったから、それをこれから守るのは誰かと考えるようになったんです。」




9.「遊佐」に住む人の為のまちであって欲しい



観光客だけに喜ばれる街にしようと思えば、街は変わっちゃう。一番は遊佐という土地に生まれ育ったりとか、住んできた人たちのまちであって欲しいから、そこに寄り添ってまちづくりをしたいと思います。」


地元を本当に大切に思う人たちにこの街で暮らしてほしい。そういう人を育てたいっていうのがありますね。人口減少もすごい深刻だけど、私はこの街に、誰でもいいから来てくれとは思ってなくって。ただ単に移住してきた10人より、本当に遊佐を大切に思ってくれる1人に来てもらえた方が、結果的に良いまちづくりができると思うんです。私は、この思いを大事にしていきたいと思っています。」


新型コロナをきっかけに、地域と都市のあり方は大きく変わった。移住や二拠点生活が注目を浴び、行政も移住者支援に力を入れている。地域活性の視点から見れば、「地域」に再び注目が集まっていることは、もちろん喜ばしいことだ。

しかし、より良い地域を作る為には、第一に、その地域に住む人たちが、地域の魅力を再認識し、地元に誇りを持てる環境を作ることが、大切ではないだろうか。

少年議会のように、地域出身・在住の若い世代が繋がり、地域と向き合う場所を作ることが、これからの地域には求められているのだ。


遊佐町公式ホームページ「令和2年度 第18期遊佐町少年議会」

遊佐町www.town.yuza.yamagata.jp


ショウナイユースプロジェクト公式note




取材所感

 取材を終え、羽越本線の列車に揺られながら、今回の取材を振り返った。取材を通して、とにかく感じたことは、あやさんの地元への思い。そして「地元愛」の本質だ。


「地元愛」とは一体何か。妄信的な地元愛や愛国心は、時に他者を傷つけることもある。しかし、地元愛とは、無条件に生まれ育った地元を「愛する」ことではないことに気付かされた。

地域の人々や、大地、文化、歴史。これらを尊敬し愛することこそが、真の「地元愛」と言うのではないだろうか。

東北本線を上野で降り、人混みを掻き分けながら、かつて東北からの集団就職列車が到着した地上ホームへと足を運んだ。彼ら、彼女らは、遠く離れた東京の地で、故郷にどのような思いを馳せていたのか。東京の人間として、地域との向き合い方を改めて考えさせられた取材だった。




​取材者

蓑田道(みのだたお)東京都港区出身・在住。
学生団体クリネクション代表。沖縄の文化・歴史を発信する団体、習知琉球設立・運営。趣味は旅行、地図を読むこと。「すべての人が文化的な生活をおくれる社会」を目指して、地域から社会を変えていくことを目標に活動をしている。

bottom of page