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No.04 鳥取県八頭町 内田奏杜さん -共助の精神が地域を支える-

2020年6月9日

「地元愛の大切さを伝えていきたい」


そう話すのは、鳥取県八頭(やず)町安部地区出身の大学1年生、内田奏杜さん。


2017年に閉校した安部小学校出身の内田さん。閉校となってしまった安部小学校の活気を再び取り戻そうと、2017年の8月から「安部小プロジェクト」を立ち上げた。今では20人程度のメンバーが活動しているという。

地元「安部」を盛り上げていくための活動をしている内田さんに「地元愛」を語っていただいた。



安部小学校

目次

  1. 寂れた母校の姿を見て立ち上がる

  2. 閉校により失われた地域の要

  3. 「地元愛」を大切にする安部の人たち

  4. 真の地域活性とは何か

  5. 活動を始めるきっかけを作りたい。

  6. コロナ禍の今こそ必要な地元愛と「共助」の精神



1. 寂れた母校の姿を見て立ち上がる

鳥取県の東部に位置する八頭町。町役場がある郡家駅から第三セクターの若桜鉄道で4駅進んだところにある安部地区。豊かな農地が広がる地域だが、その風景も2017年の安部小学校の閉校により、大きく変わってしまった。

2014年3月に安部小学校を卒業した内田さん。その3年後の2017年の3月で学校が閉校となってしまう。閉校から4・5ヶ月後たったある日、久しぶりに見た、母校の姿に衝撃を受けたという。


「閉校した年の夏の暑い日に、弟が校庭で遊ぼうとしてたんですよ。そしたら校庭に雑草が生えていて遊べないって言っていて、それをきっかけに僕1人で草取りを始めるようになったんです。その時にふと、校舎のなかを見たら、廃墟のようになっていたんです。」


その後、後輩の子たちを連れて、10月に校舎の清掃を始めるようになった。継続して地域の人にも誇れるような活動をしていきたいと思うようになり、安部小プロジェクトができていったのだ。


「自分たちの6年間おった場所がたった数ヶ月で廃墟になってしまうということが考えられなくて…正直成り行きでここまで来たっていうのが大きいです」


安部小プロジェクトは、大人は一切参加せず、安部小学校を卒業した中高生が中心となり活動している。

また、プロジェクトの活動は、もちろん清掃活動だけではない。地域の全世代が集まり交流するイベント、「安部っ子夏祭り」や、夏祭りを振り返り、安部地区の将来について考える「後期事業」など、地域全体を盛り上げるための様々な活動をしている。


「後期事業は毎年変わるのですが、1年目は自分たちの安部について考えてみよう、という企画、2年目はSDGsを遊びに捉えたサステナブル・ゲーム(※1)を参考に、SDGsについて話していく企画をしたりしています。」


今ではボランティアスピリットアワード(※2)や、マイプロジェクトアワード(※3)など、数々の大会に出演している安部小プロジェクト。しかし、ここまでの活動になるまで、様々な偶然が重なっているという。


「高校生の時に、鳥取市の広報誌に安部小プロジェクトのことを載せてもらう機会があり、それを見た朝日新聞の記者が取材してくれたことをきっかけに知名度が上がりました。それをきっかけに、ボランティアスピリットアワードに応募を誘われました。」



安部小プロジェクト夏祭りの様子


2. 閉校により失われた地域の要

東京をはじめとした都市部では、「小学校」が地域の中心となっていることはあまりない。しかし八頭町のような農村部では小学校が地域の拠点としての役割を果たしているのである。安部地区の要である安部小学校が廃校になった影響は、内田さんが当初想像していた以上に大きなものだった。


「以前から廃校になるかもという話は聞いていたので、当初は、廃校になって寂しいな、程度の気持ちでした。しかし実際に廃校になると、地域の田んぼ・果樹園・畑が衰退してしまい、地域にも大きな影響がでました。」


安部地区には、安部小学校の児童が体験に使う農地や、学校給食の食材を作るための農地など、安部小学校に関連した農地が多くあったのだという。


「我が家にも柿畑があって、小学生に柿ボリ(※4)の体験をさせていたのですが、廃校になったことで柿の木を全部切ってしまいました。地域全体の風景が廃れていってしまうのです。」


また、廃校の影響は放棄地の増加という物質的なものだけに留まらない。

運動会などのイベントは、学校の関係者だけではなく、地域の全ての人が集まる場所になっていたという。そうした場所も廃校と同時に消滅してしまったのだ。


「地域の行事も小学校を拠点にやっていました。運動会では地域住民だけじゃなく、警察署や消防署の人も来て。お巡りさんが運動会で走っている、みたいな昭和のドラマにありそうな感じの風景が残っていたんです(笑)」


学校がなくなったことで、農地とコミュニティーが同時に失われてしまったというのだ。内田さん曰く、「東京都心の繁華街から人が消え去るような感覚」だという。

安部小プロジェクトは、そうした地域の失われた活気を取り戻すためのプロジェクトでもある。


「地域の人たち全員が集まれるイベントを作りたいと思って、夏祭りを企画しました。地域の伝統芸能や、近くの高校でパフォーマンスをやっている人たちなど、そういう人たちを全部集めて、かつての運動会の代わりになる企画をしたいと思ったのです。」


3. 「地元愛」を大切にする安部の人たち

安部小プロジェクトに関わっているメンバーは今では25人。しかも全員が地元の中高生だ。ここまで多くの中高生のメンバーが集まるのも、やはり地元「安部」を愛している人たちが多いという証だ。内田さん自身も、活動の原動力は全て「地元愛」に尽きると語っている。


「地元愛は、人と人がコミュニティーを作ることで生まれるものだと思います。僕が地元愛を持つようになったきっかけは、安部を通る若桜鉄道の存在が大きいです。小さい頃、鉄道が好きで、よく若桜鉄道の駅に行っていたのですが、その時話していた運転士さんが、今でも僕のことを覚えてくれていて声をかけてくれるんです。東京とか15両編成の列車で、運転士が話しかけてくれることはまずないですよね(笑)」


地域の公民館やサロンで、みんなで声を掛け合って支え合って生活しているということが、「地元愛」を育むきっかけになったのだ。

また、安部に住む人の「地元愛」が強い理由として、農業が盛んな地域という特性もあるだろう。


「この辺の人たちは、一つの家に田んぼが必ずあって、必ず農業をやっているんです。だから田植えとか稲刈りとかも地域の何人かでグループでやっています。」


こうした、古くから続く支え合いの文化がこれまで安部を支えてきたのだ。

しかし、ただ単に地元愛を持つだけではなく、お互いが地元愛を共感しあえる場所、コミュニティーを作っていくことが必要であると内田さんは言う。



若桜鉄道安部駅


4. 真の地域活性とは何か

地元愛の強い安部地区だが、近年は他の地方と同様に人口減少に悩まされている。そのため、八頭町は移住の推進に力を入れている。八頭町内で、安部小学校と同じ年に廃校になった隼(はやぶさ)小学校は、廃校舎を活用した「隼Lab.」という企業誘致と移住促進の拠点となっている。八頭町や企業が中心となり、八頭イノベーションバレーというプロジェクトが行われているのだ。


また、隼Lab.の取り組みは県内外から絶賛されているものの、取り組みによっては地元の人にとっては賛否両論があがる事もあるという。


「その地域だけが盛り上がって、他の地域はどうなのか、とか。住民主体というより、自治体や大企業が中心になってしまい、本当の意味での地域の貢献になってはいない、という声も聞きます。」


移住者を増やしたり、企業を作り、資本を拡大していくことが地域をよくしていく、といった都会の理論を地域にそのまま持ち込むことが、常に正しいとは限らない。

地域をよくしていこうと考えた時、どうしても「地域活性」が目的になってしまいがちだが、最も肝心なことは地域住民が主体となることだ。

地域の人たちが中心になり、「この地域をどうしていきたいか」という地域のビジョンを作っていくことこそが、真の地域活性ではないだろうか。


5. 活動を始めるきっかけを作りたい。

内田さんは、今年の4月から岡山大学教育学部に進学し、将来は地元に戻り教員をしたい、と考えているそうだ。


「人の温かさを伝えられるっていうのが地域で仕事することの良さなのかなと思っています。だから地元で教員をやりたいと思っているのです。」


大学に進学してからは、安部小プロジェクトは継続しつつも、「学校」をコンセプトにした新たな学生団体を立ち上げる予定だ。そこには、社会で活動をするきっかけの場を作りたいという内田さんの思いがある。


「鳥取は、きっかけの場所が少なくて。東京に行った時に「機会」や「チャンス」が多いと感じました。僕もプロジェクトを始めた時に、行政の手続きとか、自分でやらないといけないことが多く、最初の一歩を踏み出すのは怖かった。地元では、何か活動をやりたいと思ってもなかなか踏み出せない人が多くいたんです。」

「でも活動してみて、最初の勇気が新たな人と人との繋がりをどんどん作っていく、ということに気づいたんです。だからこそ今度はそれを後押しする場所を作っていきたいと思っています。」




6. コロナ禍の今こそ必要な地元愛と「共助」の精神

最後に、内田さんに地元の好きなところを聞いてみた。


「僕は地元にいるだけで幸せですね。今まで見てきた匂いや形だったり。外の人から見たら、ただ田んぼと川と若桜鉄道しかない場所ですけどね(笑)」


コロナウイルスが全国的な蔓延を見せる中、東京などの大都市では毎日のように感染者が増え続け、街頭から人の姿は消え去った。コロナウイルスによる経済的損失は計り知れないものであるが、今回のような社会の混乱は、人口の一極集中や、行き過ぎたグローバル化・商業至上主義の歪みが露呈してきているとも言えるだろう。


「2018年の西日本豪雨や、山陰を襲った豪雪でも、地域の支えが大きいと実感しました。豪雪により隣の智頭町で国道が封鎖され多くの車が立ち往生してしまった時に、地元の人が、誰の要請を受けたわけでもなく、おにぎりや味噌汁を作って、車に乗っている人たちに配っていたんですよ。こうした非常事態にこそ、共助の精神やコミュニティーが最も発揮されると思いました。」


一寸先が見通せない非常事態の中では、自分さえ助かれば良いという「個人主義」に陥りやすい。

しかし、こうした今こそ、安部の人たちが最も大切にしている「共助の精神」そして地域の「コミュニティー」の力が必要になっているのではないだろうか。



安部地区の様子

※本記事は4月初頭に、オンライン通話を使用し取材しました。

※1 中学生社会起業家である山口由人さんが設立した一般社団法人「Sustainable Game」の活動

※2 ボランティアスピリットアワードは、ボランティア活動に取り組む学生を支援する大会、プログラム。

※3 マイプロジェクトアワードは、高校生を対象とした実践型探究学習プログラム。毎年、全国から学生団体が集まり、大会が行われている。

※4 柿を収穫すること

​取材者

蓑田道(みのだたお)東京都港区出身・在住。
学生団体クリネクション共同代表。名古屋の情報サイト「NAGOYAPRESS」編集者。趣味は旅行、地図を読むこと。地域の再生を通して地域から社会を変えていくことを目標として活動をしている。

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