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No.13 芝園かけはしプロジェクト -多文化共生でみんなが暮らしやすい団地へ-

2022年3月16日

 こんにちは。CRENECTIONの山内翼です。今回は埼玉県川口市にある芝園団地で地域活性活動に取り組む、芝園かけはしプロジェクトの代表圓山王国さんを取材しました。


目次


活動を始めるきっかけ

 芝園団地は1978年(昭和53年)に入居が始まった、埼玉県川口市にあるUR都市機構の賃貸住宅です。1990年代後半から、都心へのアクセスが良い立地のため、中国人を中心とした外国人住民が増加しました。2018年現在、およそ5000人が入居し、そのうち外国人入居者が過半数を占めています。また日本人入居者は高齢の方が多い団地となっています。

この状況で主に2つの問題が発生していました。

①文化や習慣の違いによる生活トラブル

②住民同士の接点不足


 このような問題を解決するため、団地の自治会の役員の方が中心になって、大学にゼミや多文化共生のフォーラムを通して学生に声をかけました。その学生たちは2014年に商店会主催のイベントに参加し、生活トラブルや接点不足といった芝園団地の現状を知ることになりました。そこで偶然に集められた有志の学生たちが立ち上がり、問題を解決するため、2015年に芝園かけはしプロジェクトが発足しました。


「イベントに来ていた学生みんなが多文化共生に関心がある人だけが集まっているわけではなく、地域・団地の活性化に関心がある人や、都市計画・まちづくりといった地域のコミュニティづくりをしてみたいと思う人、保育士の勉強をしていて、団地には多くの子どもがいるので、子どもたちにに何かできることはないかと思う人など様々な理由で参加する人がいました。」


 代表の圓山さんは現在大学院で都市計画やまちづくりを学んでいて、地域のコミュニティづくりをしてみたいということで参加しました。他にもさまざまな分野に興味がある学生が集まった団体です。こうしていろいろな視点から考えられるのは活動をするうえで大切だと思いました。また、集まった学生は芝園団地にゆかりがある人ではないということは意外でした。


これまでの活動

「2015年に芝園かけはしプロジェクトがスタートして以来、住民間の生活トラブルや、接点不足という当初の課題認識から2つのアプローチで活動を行っています。1つ目が文化や習慣の違いによるトラブルのもとを小さくしようとする問題緩和のアプローチと、2つ目が住民間の接点不足を解消するために第3者である学生が間に入って、交流を促進するアプローチです。」


このように、団地の現状を踏まえ、問題点を解決できるように意識して活動をしています。


「2015年に芝園かけはしプロジェクトが発足して最初に取り組んだのが”落書き机直しプロジェクト”という活動です。」



かつて団地内で住民の接点不足を象徴するようなものとして、外国人への誹謗中傷が書かれたベンチがありました。そこで”落書き机直しプロジェクト”としてUR都市機構とも協力して取り組み、国籍や年代問わず、団地の住民の方の手形を付けたベンチにしました。これは様々な文化・年代の人と共生するという交流のシンボルとなりました。現在でもこのベンチは、団地の住民の憩いの場になっています。


このような外国人に誹謗中傷の問題は芝園団地に限らず、どこで起きていてもおかしくなく難しい問題です。しかし、これを真っ先に変えようとする姿勢からこの団地に対する強い気持ちを感じました。


「また、2015年度の終盤から定期的なイベントとして、”多文化交流クラブ”という、多文化・多世代の住民の交流を促進するイベントを始めました。」



”多文化交流クラブ”では、各自で食べ物を持ち寄るランチ会や、クリスマス会などの季節の催しもの、科学実験教室など様々なイベントを行っています。このイベントでは、楽しみながらコミュニケーションできる場になっています。


「学生がすべて準備をするのではなく、プロセスからの関わりを掲げて企画会議の段階から芝園かけはしプロジェクトのメンバーだけでなく、日本人住民と外国人住民双方にも参加していただいてイベントの企画段階から住民を巻き込むということも目指していました。」



「企画会議の段階から学生だけでなく、団地に住んでいる日本人住民、外国人住民も巻き込むことで、交流をイベントのときだけの一時的なものにするのではなく、準備の段階の共同作業から継続的に互いの関係性を深められるようにしました。」


団地における住民間の接点不足の解消するためにこうしたイベントを行うことで、住民同士も団地にはどんな人がいるのか知ることができます。さらに企画を通して交流を深めることができるのでいいイベントだと思いました。また、このようなイベントは誰かだけが楽しむものではありません。全員にとって意味のある時間にするために、キーワードとしていたプロセスからの交流についてはとても大切な考えだと思いました。


「ただ、『こうした交流イベントをしたところで住民間の問題の解決につながるわけではない』という住民からの意見がありました。そこで接点不足の解決に向けた活動だけでなく、問題緩和に向けた活動として、2018年度から”生活案内パンフレットづくり”を始めました。」



上のパンフレットは2019年度に発行したもので、冊子になっています。中には団地での生活のルールや外国人にとってなじみが薄い"自治会"という概念の説明、困ったときの相談口などが書かれています。外国人住民だけでなく,日本人住民にとっても生活の参考になるような内容で、日英中の3言語で書かれたパンフレットになっています。

新たに引っ越してきて、慣れない環境での生活になる方にとってこうした生活案内パンフレットのようにルールや相談口が書かれたものがあると格段に生活のしやすさが変わると思います。さらに長く住んでいる方にとっても、改めてルールなどを確認することができ、ためになるいいパンフレットだと感じました。


「このパンフレットは、芝園かけはしプロジェクトのメンバーがファシリテーターとして、日本人住民と外国人住民の双方が参加するワークショップ形式で作成することで表現などを議論し、内容を充実させました。この作成の場でもプロセスからの交流を意識していて、パンフレットづくりを通して住民同士の対話の場となるようにしました。」


日本人住民と外国人住民の双方で話し合うワークショップの場では、相手の悪口から言い争いに発展してしまうことを想定していました。しかし、悪口大会学べることがあり、ファシリテーターのプロジェクトメンバーがこのようなことが起きてしまった場合の対処に挑戦したいという思いがあったそうです。こうした思いから、NGワード等を設けず、ありのままのワークショップを実施したそうです。プロジェクトメンバーの十分な想定もあり、修復不可能な言い争いには発展せず、無事パンフレットを作成できました。


こうした活動を聞いていくうちに、”外国人住民のために…”や、”外国人は外部から来た者だから…”というような考えではなく、すべての住民が一住民として対等な関係になれるような取り組みを意識しているということを強く感じました。


「最近は、コロナの影響で対面での交流会を実施することが難しいため、新たな形式の接点づくり・交流促進を行っています。一つ目がオンラインでの住民交流会です。しかし、これは参加が広がりませんでした。二つ目が地域情報誌づくりです。地域で活動する方を取材し、直接会うことが難しい中でも身近に感じてもらおうという活動です。」


オンラインでの交流は高齢の方にとってなじみにくく扱いにくかったり、外国人住民の方にとってもオンラインを使ってまで交流しようとは思わないそうです。人とのつながりを意識を重視してきた中で、コロナウイルスの感染拡大によるオンラインでのつながりの希薄化は難しい課題となっています。


また、地域情報誌については当団体の活動と似ているところもあり、今後アイデアを共有するなどして、互いの良さを伸ばしていきたいと思いました。


芝園かけはしプロジェクトの地域情報誌「かけ×はし」他、芝園かけはしプロジェクトの制作物に興味ををお持ちの方は芝園かけはしプロジェクトにお問い合わせください。



活動をするうえで気を付けている点

「芝園かけはしプロジェクトのメンバーは団地とはもともと関わりがなかった人たちで、団地の住民や自治会の方からは外部から来た人たちとして見られるので、第3者という中立的な立ち位置という信頼関係の下で活動しています。この信頼関係を崩さないよう、自治会の定例会に参加して意見交換をしたり、自治会主催のイベントのお手伝いをしたりして芝園かけはしプロジェクトのメンバーと地域の方とのつながりも意識しています。」


「また、少なからず日本人住民の中には外国人住民の方を受け入れられないという方います。そう思うのは実際にトラブルに遭ったなど、それぞれの理由があるので、そうした部分についても考えなければならないと思っています。」


芝園かけはしプロジェクトのメンバーは、元々団地に関わりがあったわけではない外部から来た第3者の立場です。団地で様々な人と接し、活動をしていくうちに第3者という中立の立場から傾いてしまうことがあるかもしれません。しかし、芝園かけはしプロジェクトのメンバーは、活動でどの立場の方にも色眼鏡をかけずに対等に接していけるのは強みだと感じました。


「今まで実施してきた”多文化交流クラブ”の延べ参加者はおよそ1000人で、これは芝園団地の住民数およそ5000人に比べると必ずしも大きくない数字です。芝園かけはしプロジェクトが取り組んでいる多文化共生は人々の意識に関わることなので一気に大量に変えることは難しいということは考えています。」


数字の面だとあまり貢献できていないように見えても、悲観的にならず、一歩一歩少しずつ変えていけるように活動をしていく姿勢が印象的でした。


これからの芝園団地

「芝園かけはしプロジェクトのメンバーを中心とする学生が主催する交流イベントだけでなく、これがきっかけとなって住民が主体になった新しい活動が活発になるような状況になれば嬉しいです。」

「芝園かけはしプロジェクトでは、こうした住民主体の活動を育てていけるような活動を引き続き頑張っていきたいと思っています。」


最近、団地では”こども食堂”の活動が始まっています。これは、芝園かけはしプロジェクトの活動ではなく、URの協力のもと、川口市内でこども食堂を運営している方と団地の住民の方による活動です。この活動では運営に携わる方が足りていないという課題を抱えています。

この活動に限らず、現状地域活動に関わる人が少ないそうです。そこで、芝園かけはしプロジェクト、UR、川口市が連携して地域の担い手を育てていける活動を考えているそうです。


取材を終えて

 今回、芝園かけはしプロジェクトの代表の圓山さんを取材して、芝園かけはしプロジェクト全体が団地の問題点を認識して解決し、多文化共生の実現を目指して活動しているのを強く感じました。また、市やURと協力した活動を考えているそうで、今後の幅広い活躍が楽しみです。


​取材者

山内翼(やまうちつばさ)埼玉県出身.趣味は知らない土地に旅行に行くこと.地域活動に興味がある.人とのつながりを感じられるまち・都市づくりに関わりたいと思っている.

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