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Ex-No.7 新城市若者議会
-地域との接点が若者を育み、まちを活気づける-

2022年10月2日

 番外編はCRENECTIONのメンバーが外部の団体で執筆をした記事を掲載します。今回は日本青年館の記事を掲載します。


 みなさんは「若者議会」をご存じだろうか。小学生や中高生、大学生や若者が、議会という形式をとりながら、調査活動や意見交換などを通じて政策を検討・立案、時には実行までに至る一連の取り組みである。早稲⽥⼤学卯⽉盛夫研究室およびNPO 法⼈わかもののまちが2019年に発刊した「⼦ども議会・若者議会 ⾃治体調査 報告書」によると全国1,741自治体のうち、403自治体で子ども議会や若者議会が取り組まれているという。このように、近年、全国的に広がっている若者議会の中でも、予算規模や政策実現という点において先駆的な愛知県の新城市若者議会で活躍している高校生と大学生、市役所の方から貴重な話を伺った。


◆話し手

 委員     菅沼さん(高校2年生)

        平井さん(高校2年生)

        瀬野さん(高校2年生)

 市外委員   山口さん(大学4年生)

 メンター市民 峯田さん(大学2年生)

 市役所職員  丸山さん

◆聞き手    菅原(CRENECTION


目次

1,新城市若者議会のしくみと一年の流れ

2,国際交流を機に

3,若者議会につながるたくさんのきっかけ

4,年間予算は一千万

5,新城の魅力をつたえよう ~若者議会の一年と教育ブランディング事業~

6,メンターの支えと委員の成長

7,取材後記


1,新城市若者議会のしくみと一年の流れ

 新城市若者議会は16~29歳の委員(20名)と市外委員(5名)が年間予算1000万円以内で、まちのため若者のためになる政策を考える。これを、政策立案にあたって知識や経験をもつ「メンター市民」や「メンター職員」がサポートし、新城市役所市民自治推進課が事務局を担う。新城市に在住・在学・在勤に限定する委員とは別に居住要件を問わない市外委員という枠組みもあり、市外の若者にも参画の門戸を開いている。


 若者議会の任期は1年。2~3月に応募期間があり、実際に政策を考えるのは5月からになる。8月に中間報告が行われた後、9~10月に政策の再検討が行われる。一度考えた案を再度振り返り、熟考を繰り返すことでより良い政策が生まれるのだ。最終的に11月に市長へ政策の答申がなされる。この答申に基づき、市が翌年度の当初予算に計上し、3月の市議会で可決されれば、翌年度に市が執行する。まさに若者たちによる市政への参画、まちづくりの取り組みといっていいだろう。


2,国際交流を機に

 新城市若者議会は2015年に誕生し今年で8年目となる。その背景には、「ニューキャッスルアライアンス」と穂積前市長についてふれる必要がある。

 ニューキャッスルアライアンスとは「新しい城」という意味を持つ都市のネットワークで現在、オーストリアのニューキャッスル市(サウスウェールズ州)やチェコのノヴェフラディ市など15か国17都市が加盟している。2年に1度、各都市が持ち回りで会議が開かれ、教育や文化といったテーマで意見交換を行い、相互の交流や発展の場となってきた。

 2012年、イギリスで開催されたニューキャッスルアライアンス。この年が一つの転機になる。各国の若者が自分のまちのために行動していることを新城市の若者たちは目の当たりにし、帰国後「新城ユースの会」を結成、まちづくりの活動を開始した。これが新城市若者議会のいわば前史にあたる。

 この様子をとある人物が注目した。前市長の穂積亮次氏だ。穂積氏は2013年に「若者が活躍できるまち」をマニフェストに掲げて二期目の当選を勝ち取ると、新城市若者条例・新城市若者議会条例を市議会に提出。市議会で可決され、2015年に第1期新城市若者議会が始まった。穂積氏は著書で次のように語る。


「若者政策(若者や女性が活躍する社会の実現)を人口減少時代への入り方を誤らないための必須不可欠の切り口に位置付けています。(中略)若者政策は、社会の新しい可能性を広げることを目指して取り組まれていますが、同時に、これ以上、若者を政治過程から疎外した状態に置いておくことは許されないとの意思に基づいています。なぜかといえば、人口増加時代(高度経済成長時代)の残影から、あるいは幻想から解き放たれて、社会の望ましいあり方を構想し、決断できるのは、現代の若者世代だからですし、その可能性を開花させることに社会が総力を挙げずして、われわれは新しい希望に一歩たりとも近づけないからです」(「自治体若者政策・愛知県新城市の挑戦―どのように若者を集め、その力を引き出したのか 」 松下 啓一・ 穂積 亮次 (編さん) )


3,若者議会につながるたくさんのきっかけ

 このような目的や背景を持つ新城市若者議会に集う若者たちは、どんな経緯をたどっているのだろうか。ここで見えてきたことは、新城市では若者議会への多様な接点があることだ。

 「若者議会の前に中学生議会を経験しており、高校生になったら若者議会に参加したいと思っていました。若者議会は中学生議会に比べて圧倒的に予算や規模が違います。そんな場で、自分が考える政策を実践したかったです」と菅沼さんは振り返る。菅沼さんと平井さんは同じ中学校。中2のときに学年主任に中学生議会を紹介されたという。なお、新城市では中学生議会だけでなく女性議会もある。市民参加の機会が豊富にあることが、若者議会を間接的に支えているといえそうだ。

 これに対して、職場体験で知ったというのが峯田さん。やはり中学生の時に知り、まちづくりに興味がわいたという。また、瀬野さんは兄が若者議会に楽しそうに取り組んでいる様子を見て、興味をもち参加した。瀬野さんの兄は峯田さんとも知り合いである。事業が継続していくことで新たな人材の養成につながっている。

 他方、大学生になってから若者議会に接点を持ったのが山口さん。大学のゼミで調査があり、その対象地が新城市だった。そこで新城市とつながりが生まれ、新城に対して恩返ししたいという思いも生まれ、市外委員に応募したと話す。


 若者議会を通じて同じ中学の同級生が再会したり、思わぬ機会があって新城市と関係が生まれたりする。若者議会を軸に、人と人とのつながりが生まれていく。




4,年間予算は一千万

 多様なきっかけを持って集った若者たちは、一千万という予算の枠組みで若者議会の政策を検討していく。一つの政策だけでなく複数の政策を毎年答申・実施されている。若者向けの政策もあれば、地域の課題解決のための政策もあり、多種多様だ。若者やまち全体を考えなければならない。このあたりが、学校の生徒会や部活動とは決定的に異なっている点ではないだろうか。


菅沼さん「議場で話す機会があり、緊張します。中学生議会と違って新城市全体の事を考えないといけないので、スケールが大きく責任感もあります」


峯田さん「その一方で、若者議会が市の予算を使っているので『予算の無駄遣いではないか』といった批判もありました。ただ、『中高生が地域を知り成長できる場となっており長期的に見て新城市のためになる』と役所の人から言われ励みになりました」


 予算は市から捻出されているので、責任をもって政策を考えねばならない。負荷もかかるが成長を実感すると菅沼さんは前向きだ。また、その予算の多さに反対する声も当然あったと話す峯田さん。だが、新城市若者議会は若者がまちづくりを経験する貴重な場となっており、10年後20年後の新城市に活力を与えるのだ。

 では、若者議会が具体的にどのような事業を実施してきたのだろうか。


5,新城の魅力をつたえよう ~若者議会の一年と教育ブランディング事業~

 新城市を若者の市民意識、政治的関心が高い自治体にするため、2018と2019年に実施されたのが「教育ブランディング事業」。新城市の子どもたちに新城市に興味をもってもらいたい、という狙いで事業が始まった。その思いを伝えるためにどんな手段を用いるか、教育ブランディングを行うことで新城市にどんな影響がもたらされるのか、徹底的な話し合いが行われた。そこで行われたのが中学校でのワークショップである。

 若者議会の教育ブランディングチームと新城中学校の先生方と協力し、新城中学校でワークショップを開催。生徒同士で自分たちに何ができるかディスカッションしてもらった。ここで大切にされたのはシティズンシップ教育。いわゆる主権者教育だ。一人一人の考えを尊重し、自分たちが市をつくるという認識をもってもらうこと。ワークショップを通じて新城市若者議会に興味をもち参加する中学生もいたそうだ。長年住み慣れた土地でも意外と地域の魅力には気づかない。こういった教育事業を通して、若者の市民感覚・主権者という実感が養われていく。


6,メンターの支えと委員の成長

 予算一千万という財政的規模や多くの人がいる中、実際の議場でのスピーチ、市政を動かす以上、プレッシャーがかかる場面も多い。そんな場を通じて、若者議会の委員は経験を積んでいく。


 瀬野さんは若者議会に入ってからの自身の変化を振り返る。

「入った当初、自分の意見を人前で述べることできませんでした。でも、さまざまな経験を通じて、言いたいことを言えるようになりました。また、委員会の活動を通じて今まで知らなかった新城市を知ることができました」。

 意見が言えるようになる。このことは多くの委員に共通することのようだ。その背景には意見を言いやすい雰囲気づくりがあった。「突拍子もない意見でも実現できそうなところを組み入れてくれる」と平井さん。メンター市民、メンター職員の方の連携のおかげだろう。意見を否定するのではなく、良いポイントを拾うことでどんな意見でも受け入れてくれるという安心感が生まれるのだ。

 一方、支える側のメンター市民や職員の方々はこのことをよく理解している。メンター市民の峯田さんは「自分が意見を言うことで議論の邪魔にならないか気を付けてます」と語る。委員として経験してきたメンターの方の意見は正しく思えてしまい、議論の活性化へと至らない可能性もある。

 事務局の丸山さんも同じ思いだ。「若者とは近い距離でいたいですね。大人がいることで委員の方々を委縮させないよう、話しやすい雰囲気づくりを意識して取り組んでいます」。

 菅沼さんは委員でありながら、雰囲気づくりの大切さを実感している。「議会の回数を重ねることで何でも話せる雰囲気が出来ました。今期は話しやすい雰囲気を自分が作って議論を活発化させていこうと思います」。委員たちの成長の背景には、市を背負っているという責任はもちろん、メンターの方々の支えがある。若者議会にはまちづくりの要素と、こうした教育の要素もあるのだ。





7,取材後記

 今回の取材で、新城市若者議会には、若者が活躍できる場がしっかりと設けられていると感じた。そもそも若者議会がこうして続いているのも条例のおかげであり、提案された事業を実現する予算もある。その事業は、委員とメンターによって提案・実現され、地域の活性化へとつながる。こうした活動を通してまちづくりの面白さに気づき、将来も新城市に携わりたい、と瀬野さんは話す。若いうちから地域と接する機会があることで、地域への愛着も育まれていき、彼らの手によって新城市が活性化していく。地域の未来に、若者が必要なのだ。


◆もっと知りたい!な人へ


新城市若者議会ウェブサイト

https://wakamono-gikai.jp/


​取材者

菅原 信弥(すがわら しんや)

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