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Ex-No.6 ねつせた!
-若者の熱量が集う場所-
2022年8月6日
番外編はCRENECTIONのメンバーが外部の団体で執筆をした記事を掲載します。今回は日本青年館の記事を掲載します。
今回は世田谷区の情報を若者の視点から発信し、地域を盛り上げているねつせた!(情熱せたがや、始めました。)の方々からお話を伺いました。
■話し手
学生メンバー
りおさん、いちかさん
区役所職員
Sさん、Nさん、Aさん、
事業者(株式会社チーム・エムツー)
Hさん
■聞き手
池田明日香(CRENECTION)
田中潮(一般財団法人 日本青年館)
ねつせた!(情熱せたがや、始めました。)とは、世田谷区の情報を若者の視点で発信している団体です。Instagram、Twitter、Facebook、note、YouTubeの5種類の媒体を使い、世田谷区の情報発信を軸として活動しています。メンバーそれぞれの「やりたい!」を実現するプロジェクトもたくさん行われており、世田谷区で開催されるイベントへの参加やまち歩き、区内で活躍する人へのインタビューから世田谷を「知る」ことで、さまざまな情報発信をされています。ねつせた!に関しての活動の詳細は以下をご覧ください。https://www.netsuseta.com/
目次
ねつせた!の設立経緯と世田谷の地域課題
ねつせた!の軌跡
――ねつせた!は、どのような経緯で設立されたのでしょうか。
Nさん:区に関する情報が若者に届いていないという問題を解決するため、若者が使っている媒体で情報を拡散しようと始めたことが設立のきっかけです。情報発信とあわせて、地域社会で若者が主体的に活動するという2本柱で活動をしています。平成29年度に本格事業としてスタートしました。
――活動を通じてどのような反応がありますか。
Aさん:ねつせた!は、メンバー(主に高校生や大学生)・区役所・事業者の3者が連携して行っています。区役所としては若者に対して伴走する役割として、日頃から活動のサポートをしています。地域には若者を応援してくれる人が沢山いるので、さまざまな活動を発信することで若者の頑張りを知っていただくきっかけになっています。
りおさん:5年間の活動を通して、区内・区外を問わず沢山の人と知り合いました。区内では地域の人とのつながりができ、区外では例えば「全国まちづくり若者サミット」などに参加したり、他にも全国の様々な公務員の方にねつせた!を紹介したりすることで、いろんな関わりが増えたと感じます。
Aさん:昨年は国際女性デーにて商店街の方々とコラボして、ミモザの花を配るイベントを行いました。多くの人が関わるイベントを行うことで、地域の方とのつながりがより一層強くなりました。また、世田谷区にはせたがやPay(せたPay)というシステムがあり、メンバーが取材をして地域の人に知っていただくいうこともありました。「区役所が力を入れている取り組みを知ることができた」という声もあります。
――せたPayとは何ですか?
Aさん:地域内で使える電子通貨のようなものです。ポイントを貯めて商店街で使うことができます。特に若い世代の人達に広まってほしいですね!商業課が主管ではじめた取り組みですが、「ねつせた!」で伝えることで、まちづくりに貢献するという部分につながっていると思います。
多様な若者と居場所
――世田谷区は人口90万人の3分の1が若者という特徴があると聞きます。どのような利点や課題がありますか。
Aさん:個人的には下北沢が特に若者に人気というイメージがあります。ふらっと若者がくる、集まる場所が多ければ多いほど、まちの活性度や住みやすさにもつながると思います。一方で、一人暮らしの若者の中には情報が届かない人も多く、最近ではコロナ禍ということもあり、外に行かない大学生が増えているようです。多種多様な若者がいることを知り、悩みを相談できない若者に対してなにか支援できればと思っています。
いちかさん:たしかに、私は入学式もできないまま遠隔授業が始まってしまって外に行く理由がなく、その時は精神的な悩みがあったかもしれないです。
Aさん:先ほどもお話したように世田谷にはいろんな若者がいます。中には生活の中にオンラインの環境がない人や、情報にアクセスできない人もいます。社会から切り離されてしまうという心配があり大きな課題です。
若い世代に向けての発信
――多様な課題を抱えた若者がいる中で必要な区の情報が届いていない。その課題に「ねつせた!」の取り組みは非常にかみ合っていると思います。具体的に、どのような方法で届けていますか。
りおさん:SNSでは若者にわかりやすい言葉を使うようにしたり、読者に有用な情報発信ができるように心がけたりしています。また、最近のトレンドやハッシュタグも使うという工夫をしながら面白く楽しい魅力発信をしています。
Sさん:区の事業でもありますので、実は年間数値目標を投稿回数→720回、閲覧数→95万回(令和3年度実績)に目標に設定しています。この数字は5つの媒体の合計値です。もちろん、若者支援は定量的に評価できるものではありませんから、あくまで一つの目安として、参考という程度の位置づけです。年々目標は上がっていますが、毎年ちゃんと目標を達成しています(一同驚きの声)。メンバーの意欲が高く、気づいたら目標を達成している感じです(笑)。
――周りからの反応はどうですか?
Aさん:昨年度からはメンバーの頑張りもあり、知って頂く機会が非常に増えたと思います。問い合わせ窓口に依頼が来るようになり、認知度の向上を感じています。行政内からイベント投稿のお願いを受けることもあり信頼も非常に厚くなってきています。
活動上の課題や工夫
チェックLINEでクオリティを向上させる
――5つのSNSを活用されていると伺っていますが、それぞれの使い分けなどありましたらお聞かせください。
いちかさん:Twitterは文字がメインなので分かりやすく短い文章を、Instagramは目に入る分かりやすい画像を、noteは取材のときの感想や自分の想いも含めて長めの文章で発信というように各SNSの特徴を活かした発信をしています。
りおさん:Facebookは「ねつせた!」の団体としての活動報告を発信しつつ絵文字を使用したり広告のようにパッと見て分かるように、そのテーマにまつわる情報をまとめたりするといった工夫もしています。
Hさん:事業者としてはメンバーが発信したいことを優先しながら、SNSのユーザー層などの違いを踏まえてアドバイスを行い、サポートしています。
――「ねつせた!」の投稿は非常にわかりやすく、クオリティが高いと感じます。何か秘訣があれば教えてください。
いちかさん:「ねつせた!」にはチェックLINEというグループLINEがあり、投稿前にメンバーのみんながチェックしてくれます。周りの人の助けから、投稿をさらに良いものにしています。また、投稿活動を始める前にセキュリティについて講習をしたり、投稿ルールを確認したりすることで、注意点を学べるようになっています。
りおさん:実際に講習を受けて、「個人と団体のSNS発信は違うことを学べた」という声も多くあります。SNSの投稿は全世界に発信されるので、危険もあるため、ルールを共有することが大切ですね。
メンバーの「やりたい」を実現するために
――「ねつせた!」はSNSでの発信とは別に、様々なプロジェクトで活動されていると伺いました。具体的にどんな取り組みをされているのでしょうか。
りおさん:例えば「せたEduプロジェクト」では、教育に関心のあるメンバーがいて、「プロジェクトを通して興味のあることについて発信できて良かった」と言っていました。取り組みとしては、区の教育施策の紹介や、区内の中学・高校・大学紹介、区内の小学校で「特色ある教育活動」をされている方へのインタビューなどを行いました。
いちかさん:私からは居場所プロジェクトを紹介します。世田谷区の中高生の居場所づくりをメインに立ち上がりました。世田谷には若者の居場所として3つの交流センターがあります。昨年はアップス(希望丘青少年交流センター)のセンター長への取材を行い、居場所づくりについて学んだことをSNSに投稿しました。
――プロジェクト制を用いて活動をされているのはなぜですか。
りおさん:一人ひとりのやりたいことを大切にしているという点が大きいです。少人数による活動で効率がよいと同時に、メンバーが自分の興味のあることを実現できる2つの良さがあると思います。
コロナ禍と団体内の交流
――近年、コロナ禍の影響を受けていない活動はありません。「ねつせた!」の場合、どのような影響がありましたか。
りおさん:まず活動内容が大きく変わりました。ねつせた!は、メンバーの居場所として大切で、ここに来るから安心というメンバーが多くいましたが、コロナ禍では以前のように対面で会える機会や場がなくなってしまいました。しかし、そのような中でも、オンラインツールを活用しコンテンツを画面共有して作るなど工夫することで「発信」という部分はより強化できたのではないかと思います。
いちかさん:私はコロナ禍で「ねつせた!」に参加しました。行動が制限され、大学授業もオンラインという状況の中で、ねつせた!に参加したことで、コミュニティが広がりました。オンラインの会話だけでも行動範囲が広がったので良かったと思っています。「ねつせた!」が大学生活の中での思い出にもなりました。
Aさん:対面で会えないためオンライン導入が必要になり、セキュリティ面で安全な通信環境を整えることが行政の立場として困難な部分でした。対面で活動できない中、オンライン上でいかにして仲良くなれるか、会話が生まれるかといった課題にはとても悩みました。若い世代のメンバー達は新しいことを取り入れることが早く、柔軟に対応しているところがすごかったです。
Hさん:最近はオンライン慣れしている人が多い印象です。社会が変化する中でコミュニケーションのとり方に気をつけていきたいと感じています。これからは対面とオンラインのハイブリッド形式で、新しいことも行っていきたいです。
世田谷区の子ども・若者支援策
施設運営で若者支援を幅広く、切れ目なく
――「ねつせた!」の活動を進めていくうえで、区役所のサポートは重要な役割を果たしていると思います。担当課である子ども若者支援課ではどのようなお仕事をされているのですか。
Sさん:今まで「若者支援担当課」という名称だったのですが、今年度から「子ども・若者支援課」になりました。設立経緯としては青少年や若者の施策が少ないという課題があがったことが始まりです。自殺、不登校の増加や生きづらさを抱えた若者が多くいる中で、早めに解決策を打ち出す必要がありました。そこで若者組織体制強化を目指し、平成25年4月「子ども部」に「若者支援担当課」が設置され若者の専管組織が立ち上がりました。平成26年に「子ども・若者部」に名称を変更し、子どもから若者まで幅広く切れ目なく支援するようになり現在に至ります。
――区役所ウェブサイトを拝見すると、子ども・若者支援課では世田谷区内の様々な施設運営を通じて政策を行っていることがわかります。どんな施設なのでしょうか。
Sさん: 若者支援として世田谷区には青少年交流センターが全部で3つ(希望丘・池之上・野毛)あります。施設運営は公益財団法人児童育成協会に運営業務を委託しており、子ども・若者に伴走しながら若者の自立も支援しています。また、身近な居場所事業というものもあり、三軒茶屋に「あいりす」・上北沢に「たからばこ」があります。自分らしく自由に過ごせる空間としての施設で昭和女子大学、日本大学と協定を結び学生スタッフさんに運営していただいています。中高生に身近なお兄さん・お姉さん(大学生)がいて利用しやすいような施設であることが目的です。大学生スタッフ自身も成長できるよう、職員が運営を補助するフォロー体制もあります。世田谷区では、若者は39歳までを対象としており、区内の若者を中心に居場所や交流を求めている人が多く集まります。
これからの展望と私にとっての「ねつせた!」
――気がつけば、もうこんな時間になってしまいました。「ねつせた!」の今後の展望をお聞かせください。
りおさん:まずは団体内部のメンバーの結束力を強化していきたいです。SNSの発信スキルも大切なので、新メンバーがスキル習得のため、わからないことを聞ける環境をつくっていきたいです。
いちかさん:自分のやりたいことを言い合える環境を続けていきたいです。「ねつせた!」のメンバーは自分の考えをはっきり言える人が多いので、私も意欲を持ち続けながら率先して行動していきたいです。
Hさん:私たちはメンバーが楽しく活動する土壌を整える役目を担い続けたいと思います。SNS講習を行ったり、やりたいことがない・わからないメンバーの相談にのったりしながら一緒にそれを探していく、壁打ち相手のような存在でありたいです。
Aさん:ねつせた!でなにか1つでも「やり遂げた!」と思えることを持っていてほしいと思います。世田谷区では約3分の1が若者であることから、ねつせた!の活動をみているメンバー以外の若者にも知らなかったことを見つけられる、知れるような「若者のため」になるさらに良い団体にしていきたいです。
Sさん:中学、高校、大学、社会人とライフステージが変わる中で、メンバー不足にならないように循環させる必要があると思います。これからはベテランメンバーが新しいメンバーに教える体制を整えて、知識を循環できるようにしたいです。
Nさん:「ねつせた!」の魅力は、ただの情報発信にとどまらず、「メンバー自身の活動が区内の若者にも届く」という部分が大きいと思います。投稿内容の濃さや心に届く発信、思いのこもった投稿を見た人達の次の行動につながるように活動のサポートをしていきたいと思います。
――最後の質問です。皆さんにとっての「ねつせた!」を一言で表してください。
りおさん:「ねつせた!」は「スキルアップの場所」です!後輩を育てたり先輩に教えてもらったりすることで人間的に成長できるからです。取材を通して普段会えない人と会えたり、ものごとを伝える大切さが学べたりすると思います。
いちかさん:「ねつせた!」は「安心できる場所」です!メンバーは優しい人が多く、意見を肯定、尊重してもらえます。
――今日はお忙しいところ、お話を聞かせていただきありがとうございました。
【取材後記】メンバーの情熱に感嘆
世田谷区は若者に人気な地域であるため、私自身、活動内容に非常に関心がありました。取材の機会を頂けたことで、活動の経緯から現状や今後の展望について幅広くお話が聞けて楽しかったです。「ねつせた!」で活動されている方々は地域でのつながりを求めていたり、まちづくりや世田谷区への興味があったりと、それぞれやりたいことを持っているメンバーが多いという点が面白いと思いました。やりたいこと+αのことを「ねつせた!」ならできるかも!という理由で参加されているメンバーもいるそうです。
メンバーだけでなく、若者の個性が輝くようにサポートされている区役所の方々や、事業者の方々の存在の大きさも感じました。メンバーが主体的に活動するための基盤と後押しがあるからこそ、安心して活動できる“居場所”として「ねつせた!」は若者と地域を結ぶライフラインとなっています。
また、地域の方々との連携を通して、多くの人から愛されている団体であることも感じました。文中に出てくる「アップス」、実は取材前に訪問し、施設のあたたかい雰囲気も実感しました。紙幅の関係で記事としては残念ながら割愛しましたが、取材場所の「あいりす」もあわせて、ぜひ多くの方に訪れてみていただきたいです。世田谷区の先進的な若者支援の取り組みの一環として「ねつせた!」が行われていることは非常に重要な部分です。
それから、「ねつせた!」メンバーのお二人からお話を聞き、情報発信に対するこだわりや世田谷区を盛り上げたいという想いを強く感じました。メンバーの心の内にある情熱がSNSなどの情報発信媒体に顕著に表れています。自分と同世代の人の言葉に突き動かされる若者は少なくないでしょう。「ねつせた!」のメンバーの方々のように、地域の魅力を若者の視点で発信してくれる存在は、地域活性化にとって大きな意味があることを実感しながら、「あいりす」を後にしたのでした。
取材者
池田 明日香(いけだ あすか)